サイモン&ガーファンクル 『コンドルは飛んで行く』
Saigenji (ミュージシャン)
初めて音楽に「恋をした」のは九歳の時であった。
その頃僕は親父の仕事の都合で香港におり、日本人学校に通う小学校三年生だった。親父はクラシック、特にモーツァルトが大好きで、日曜日には朝から大音量でかけていた。お袋は洋楽を始めとする、ポップスが好きで、USトップ40なんかは欠かさず見ていた。どちらも音楽好きではあったけど、まあ言うなればごく普通の音楽環境だった。
あれはなんだったのだろう、まさに雷に打たれたとしか思えない。ターンテーブルに乗っていたのは(まだまだレコードの時代だったのだ)サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」だった。
螺旋を描いて飛翔するようなメロディを歌う二人の歌のハーモニーは勿論素敵だったけど、僕の耳を惹き付けたのは、ひなびた土の匂いのするようなバックの民族楽器の音だった。特に二人の歌のあと、飛翔するようなサビのメロディの笛の二重奏の音色は、僕の胸を掻きむしった。
文字通り「恋」であった。
その時僕は、この音楽を始めたい、いや始めなければならない、と決意にも似た強い気持ちを持った。それまでは音楽なんてなんの興味もないただの野球少年だったのだ。
そのバックに流れる音楽は「フォルクローレ」と呼ばれる南米アンデス地方の民族音楽であり、その笛の名前は「ケーナ」であると知った僕は、親父に頼み込んでフォルクローレのレコードを、親父が日本に帰国した折りに買ってきてもらい、まずは学校で習い始めたばかりのリコーダーでコピーを始めた。学校から帰って来るとすぐに書斎のターンテーブルにフォルクローレのレコードを載せ、何時間も何時間も聴き続け、リコーダーで音を探り、メロディを吹いた。
やがてケーナを手に入れ、まずは音を出すことに四苦八苦しながら、独学で吹きかたを学んだ。やがてフォルクローレの他の楽器もマスターし、たくさんの思いがけない出逢いがあって、南米のミュージシャンに混じってケーナを吹いたり、自分のコンフント(バンド)を作ったり、たくさんのかけがえのない経験をする事になった。
このケーナ、そしてフォルクローレへの愛情は長く二十歳を過ぎても続き、やがて平行して始めたブラジリアンスタイルのギターと歌、そしてシンガーソングライティングに取って替わられるまで、自分の音楽のふるさとであり、恋の対象でありつづけた。
実は今でも鞄にケーナは入っていて、時にはかなり頻繁に練習したりしている。それはあの時音楽に恋をした自分を思い出すことであり、懐かしい曲を吹くと、今でもあの音楽が自分の胸を掻きむしった、甘酸っぱい感覚を昨日のことのように思い出すのだ。
Saigenji
http://saigenji.com/
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