ー『素晴らしき日常』(2010.7.21発売)に込めたメッセージを教えてください。
「“素晴らしき日常”って一言で言っても、「どこをどうとって素晴らしいんですか?」って思う人がたくさんいるような気がするんです。“麗しき国”って歌い出しも「どこが麗しいんだよ」って。僕もそう思ったり、その反面、いやほんっとに麗しい国に生まれたと思う、今自分は幸せだって思う自分もいる。ポジティブかネガティブか、どっちともとれるような曲を書きたかったんです。聴いてもらった後で、素晴らしくないって思ってた人が素晴らしいと思える瞬間があったり、その逆もあったり、一瞬でも考えてもらえたら自分にとって成功というか、すごくニュートラルな視点で日常を切り取りたかった」
ー確かに、この歌を聴いて「何も思わない、中立でいい」って人はいないような気がします。
「そういうふうに思ってもらえたらすごくありがたいですね。どう受け取られても。何も感じてもらえないのはすごく寂しいんです」
ーちょうど一年前の『こどものうた』、これも強烈でしたね。痛い、聴いてて辛くなるという意見もあるくらい。あれから一年経って変わってきた部分ってありますか?
「『こどものうた』を作った時も“生き抜いて”ってキーワードだったりとか、すごく根っこにある気持ちは同じで、まだ光があるみたいな事を歌いたいとはずっと思ってるんですけど、それを歌う為にどう表現したらいいかいつも考えていて。『こどものうた』はありのままの自分、むき出しの感情をそのまま曲にぶつけてできたんですが、言葉が丸裸だから受け取られ方によってはすごくショッキングで、聴く人を選ぶような感じになってしまっていて。それはそれでまぁ、荒くれ者の子供を生んだっていう意味では悪い事だと思ってないんですけど、もっとストレートに聴く人に届けられないものかってすごい悩んだ一年間で。“素晴らしい”とか“素晴らしくない”とかって事をキーワードに自分はこんなふうに思う、こうじゃないかな、きっと世界は素晴らしいんじゃないかなっていう想いを、聴く人にもできるだけ遠回りのないように、変な誤解のないようにスーッと入るものをずーっと作りたくて、悩んだ結果の『素晴らしき日常』な気はしてますね」
ー具体的に例えば、“誰”に聴かせたいっていうのはありますか?
「自分と似たような事を考えている人に聴いて欲しいですね。日常を生きている人達というか、細かい事で傷ついたり、悩んでる人達に。何で自分ってこんなにカッコ悪いんだろうとかツイてないのは自分だけなんじゃないかとか、なんかそういう事が僕はすごく多いので、もし僕みたいな事で悩んでいる人がいるならその人達に届けたいと思いますね」
ーカップリングの『8月6日』、これは本当の記念日なんですか?
「そこはみなさんのご想像にお任せしようかと思います。一冊の自由帳に日記や絵や詩を自由に描いてるんですが、それが妄想だったり現実だったりするんですけど、いつもはそのまんま曲にするって事はなかなかないんですよ。その言葉、そのエピソードをどういうふうに切り取ろうって事をいつも考えているんですが、『8月6日』に関してはわりと書いてあった事をそのまんま曲にしました」
ー僕が古い人間なのか、“8月6日”って聞いてやっぱり“ヒロシマ”が思い浮かぶんです。タイトル見た瞬間に、「平和の歌なんだ」って思う人もいると思うんです。そこは関連ないんですよね?
「例えば今日が6月23日、僕にとっては何の日でもないけど、誰かにとっては誕生日かもしれない。付き合い始めの記念日かもしれないし、事故があった日かもしれない。8月6日が“広島に原爆が落ちた日”だって事は、曲を作ってる最中で気付いたんですけど、でもだからってそこで詩を書きかえてやっぱり8月5日にするのは違うと思った。新しい視点で素敵な日に思う事もできるって思ったら、捨てたもんじゃない。なんでもない日も特別な日になりうるし、その願いも込められています」
ーなるほど。話は飛びますが、高橋さんにインパクトを加えている部分に、トレードマークとも言える“メガネ”の存在があると思うんです。でもPVで一瞬メガネ外してる瞬間がありましたよね。
「『こどものうた』のPVですね。あれ勢いで外れちゃったんです」
ーそのとき結構イケメンだなと思ったんですが。
「あら、ありがとうございます。一年に一回言われるか言われないか、イケメン(笑)」
ーやはりこだわりを持ってメガネはされているんでしょうか?
「そうですね、こだわりというよりも…、なんで今イケメンかどうか見たんですか?」(カメラマンに対して)
(一同笑)
「イケメンかどうか、あ、イケメンかどうかじゃなくてなんの話だっけ(笑)メガネがトレードマークかどうかっていうのは、わりと自分にとってのフックというか。僕すごい目が悪いんですよ。元々はコンタクトレンズだったんですけど、プロデューサーの箭内道彦さんが言うには、「高橋は顔に特徴がない」。僕言われた時、ガラスの心がガシャンと割れたんです(笑)で、金髪にするかとか、何かしらみんなに覚えてもらう特徴を探して。自分がどうとかっていうよりも、やっぱり“高橋優”の曲を聴いて覚えて欲しいっていうのが一番の願いなので、その為にフックとなったのがメガネでした」
ーフックとなる要素にアーティスト名もあると思うのですが、ちょうど僕の苗字も“高橋”で、よくある名前じゃないですか。困った事はないんですけど、デビューするとしたらインパクトに欠ける名前なのかな、なんて思うのですが。
「僕、ホントに高橋さんのおっしゃろうとしてる事が理解できるというか、“高橋”なんて周りにたくさんいたんですよ、秋田県。同級生の男子10人くらい“高橋”で、「たかはしくん!」つったら全員振り向きますよ。“高橋”の群衆の中に紛れてるみたいなコンプレックスもあったし、そういう中で“柿崎”とか“藤岡”とか、超カッコいいじゃないですか(笑)でもすごく平凡に生きてきた自分のカッコ悪さも自分の特徴だと思ったんですね。そういうなんか何の取り柄もないみたいな部分を僕は歌いたい。絶対みんなそれぞれ大変で頑張ってるのに、「俺なんか普通のサラリーマンだぜ」って、嘆くように言う人もいる。でもそれってせっかくそうなんだから、そこを楽しめる部分も絶対あるはずって思うんですね。芸名じゃなくて“高橋優”って本名でそのまんまデビューできるってすごい幸せな事だと思うし、“フツーの高橋”がどこまでやれるかって事も楽しみだし、“フツーの高橋”を応援してあげたい“高橋”でいたいというか」
ー最後に、高橋さんにとって歌う理由とは。
「なんだろう。歌っちゃダメな理由を聞きたいですね、逆に。みんなそれぞれ働いてる中で、僕はそれが歌だったっていう事だと思ってるんですけど、やっぱり衝動的だったんですよ。歌わないとどうしようもなかった。歌が救いでしたね。でも、「もう高橋ダメ、歌っちゃダメ!」って言われたらどうしようって事はたまに考えます。それでも、歌う気はするんですよね。美容師さん、カメラを握る人、ライターさん、ビルの窓の中でみんなそれぞれ色んな事やって働いてるのも、望んでか望まずか分からないですけど絶対自分で選んでるはず。その中で僕は歌を選んだし、歌っちゃダメじゃなさそうだから歌い続けてます」
|